12月28日 長野県伊那市で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)の主な取組みには、「モバイルクリニック」「ぐるっとタクシー」「ゆうあいマーケット」がある。このうち「モバイルクリニック」は、移動する診療室として、遠隔診療と服薬指導などを、自宅付近まで移動して来る診療車に同乗する看護師のサポートで、移動が困難な高齢者などが安心して医療を受けられる仕組みだ。日本のMaaS実証実験期の比較的早い時期から行われたため、先進事例としてメディアにも頻繁に取り挙げられている事例だ。異なる組織である自治体と医療が、鉄道で言うところの上下分離方式(インフラは自治体持ち、モビリティ運行は公共交通事業者が担う方式)により進められており、伊那市はモバイルクリニックを運営し、医療機関が実際の在宅医療部分を担う。医師は保険診療と、自由診療(自費診療)を問わず、自由に活用できる。モビリティ運行部分に関しては、自治体予算でバス事業者に委託して運行する。サービス内容は、看護師による医師と患者双方のスケジュール予約、サービスの核である「Zoomを用いたオンライン診療」、車載される診察機器(血圧計、パルスオキシメーター、血糖値計、心電図モニター、AEDなど)の利用、医療・健康情報共有クラウドシステムの利用などだ。最近では、検体検査なども採用されていると聞く。クラウドシステムは、車内PCで患者のカルテの共有(医師や看護師、薬剤師などが利用)、受信履歴の入力や管理が出来る(IIJ電子@連絡帳サービス)。この仕組みは厚労省や総務省、経産省などの「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(厚労省)や「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(経済産業省・総務省)に準拠している。同事業は実証で終わらず、今後も範囲を拡大しながら継続して市民に提供される。新たな取り組みで特筆すべきは、看護師の他、介護を必要とする患者のため、ケアマネージャーの同乗が追加されたことだ。「ぐるっとタクシー」は、この10月から同市の竜東・美篶・手良地区及び高遠町地区で運行する、AIで配車手配を行う乗り合いタクシー事業だ。65歳以上の方、運転免許返納者、障害者手帳所持者、特定医療費(指定難病)受給者証をお持ちの方、持病により運転が出来ないなど、移動が困難な事情がある方が対象で、利用するには同乗者も含め、事前に登録が必要となる。利用料金は今のところ現金払いとなる。「ゆうあいマーケット」は、中山間地域(対象は長谷地域の非持・溝口・黒河内・中尾の4地区)の移動困難者のいわゆる買い物弱者の支援サービスとして、伊那ケーブルテレビの「ライフ・サポート・チャンネル」で、利用者が注文した商品をドローンによる空輸(配送)で近隣の公民館まで届ける。慣れ親しんだテレビリモコンを使い、日用品などを注文できるので、高齢者にも使いやすいサービスだ。サービスは今年の8月から本格運用されている。こちらの利用料金は、テレビ受信料とサービス料金を口座振替する方式だ。伊那市の医療を基軸としたMaaSは、地域交通の運転手を地域訪問医療車両の運転手に転換、新たに雇用を生み出し、全国の公共交通事業者に新たな収入の道を提供している。また、同市は従来クリニックに所属する看護師を、専任看護師として採用することも検討している。また、新たなケアマネージャーの活躍の場も創出している。全国の自治体には伊那市のDXが生む医療効果だけでなく、同時に創出される「雇用」にも目を向けていただきたい。伊那市には、今後とも事業継続に頭を悩ませるMaaS事業者を意識し、情報発信していただくことをお願いしたい。以下はご参考まで。AOSデータでは AOS iDX.jp(https://www.aosidx.jp/)において、医療DXを進める医療従事者、医療機関システム関係者、外部の行政・医療提携機関に必要とされる「紙のデジタル化」「異なる組織における業務データの共有・保管」「病院のバックオフィスデータ共有・管理の効率化」を支援する「AOS MedDX」というソリューションを提供している。
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実はテスラより上!? 国産メーカーの自動運転 どう違う? 「運転手主体」の裏にある安全と哲学
12月27日 カーナビやドライブレコーダー、カーオーディオのメーカーであるデンソーテン(旧:富士通テン)は、新領域として人・クルマなどモビリティのデータを集約・活用し、移動におけるお困りごとを解決する「モビリティソリューションパートナー」を謳い、将来のモビリティ社会に必要不可欠な製品や・サービス提供の道を模索している。これまで培った車載機器を通じた「車の価値向上」に加え、移動課題の解決を通じて人々の生活を豊かにする「生活の価値向上」に貢献すべく、MaaS事業化に向け、機能開発やブラッシュアップに取り組む。デンソーテンは、地域の交通事業者と連携し、バス事業者向けの顔認証技術を活用した属性別の乗降分析・マスク着用啓蒙、車内混雑の見える化に取り組む。また、最近よくメディアで聞かれる「観光MaaS」分野においても、レンタカー事業者と連携し、レンタカーの無人受付化と交通事故低減を目指した実証実験を行っている。レンタカーの予約者にスマホを活用した顔認証技術による受付および、車両の解錠・施錠、ドライブレコーダーを活用し、運転マナー動画の配布、走行中の安全運転支援のための音声ガイダンス、旅行者の行動分析、危険運転多発エリア抽出、渋滞分析、訪問先分析なども行っている。その他の地域では、ドライブレコーダーを高齢者に貸与して、安全運転の支援システムを提供しつつ、運転する車の挙動レポートを提示し、免許返納をするか否かの判断に役立ててもらうなどの取り組みも検討している。そのような流れの中で、同社は今本社のある 神戸市兵庫区にあるヴィッセル神戸の拠点ノエビアスタジアム神戸近辺で「地域活性化MaaS」に取り組む。同スタジアムはこれまで多くの大規模イベントやJリーグの試合を開催してきたが、イベント修了時に観客が帰路につく際など、周辺の交通網に一時的に大規模な混雑を引き起こすことが課題となっている。この課題に対して同社と神戸大学、楽天モバイルが連携、MaaSアプリを利用し、ポイント付与に拠る「混雑緩和・移動需要の平準化」を試みている。帰宅者の「時間」と「場所」を分散させ、混雑の緩和を促しつつ、地元経済の活性化も図る試みだ。同社はこの試みを「困ってMaaS」と命名、スマホアプリをして、利用者への提供を始めた。アプリでは移動需要の平準化を目的とし、①付近の交通状況を可視化し、②クーポンによる施設内・周辺店舗への誘導、③効率的な移動手段の提供機能を用意した。スタジアムではユーザーに分散退場を促すとともに周辺交通の混雑情報を配信、予測待ち時間なども提供、ユーザに待機を促す。また会場敷地内では、スマホを利用し映像で混雑状況を確認できる仕組みも用意した。試合終了後、利用者は指定エリアに待機することでポイントが付与される。待機時間が長ければその分、余計にポイントが付与され、貯まったポイントは施設内や周辺の飲食店でクーポンとして利用してもらうことで、地元飲食店約150店舗の利用も促進する。効率的な移動の面では、従来会場周辺では、禁止されていたタクシー乗車をスタジアムから少し離れた場所に仮設したタクシー乗り場まで誘導するとともに、アプリ上での配車手配を可能にしている。周辺地域には赤外線センサーを設置し、人流データ(5分ごと通過人数の計測)を蓄積している。2020年後半から蓄積された本データを活用し、混雑状況のシミュレーションモデルを構築し試合当日の交通情報や観客数、勝敗などの情報を組合せリアルタイムで混雑状況を予測するなどしている。同社では2022年より「困ってMaaS」の実践投入し、2023年からは様々なイベントで「混雑する」地域に横展開を図るとしている。会場周辺に流れる「兵庫運河」はかつて船舶の航行に難のあった和田岬の水上迂回路として、また兵庫港周辺の経済活動を活性化させる目的で、1874年(明治7年)に神戸の商人、神田兵右衛門により計画され開削された。その恩恵で周辺は大正から昭和初期にかけ、一大商工業地域として栄えたという。現代の「運河」はアプリ上を流れるデータに姿を変えたが、再び神戸や各地の経済を繁栄させられるだろうか。成功を祈りたい。
自動運転レベル4、法制化で独に並ぶ 22年度にも実用化 他
12月24日 国土交通省は12/20に、無人航空機(ドローン、マルチコプター、ラジコン機など)の登録制度の創設(航空法の一部改正/令和2年6月24日 公布/令和4年6月20日 施行)に基づき、本制度の手続きの詳細を規定、事前登録の受付を開始した。所有者等の把握、危険性を有する期待の排除等を通じ、無人航空機の飛行の安全の更なる向上を図るとした。実際の義務化は、令和4年6月20日となる。手続きは、登録申請所有者が「対象となる100kg以上の機体」の機体情報(種類、製造者、形式、製造番号等)と所有者・使用者情報(氏名・名称、住所等)をオンライン(https://www.mlit.go.jp/koku/drone/)か郵送で、国土交通大臣宛に申請する。同省で申請内容をチェック後、登録申請所有者に「登録記号通知」が送られる。登録申請所有者は、登録記号を対象となる機体に表示(機体に直接記載または貼付け、登録記号を含む機体識別情報を発信(リモートID機能))するの3ステップとなる。新設されるのは①登録義務関係、②表示義務関係、③その他。本制度により無人航空機は、登録を受けなければ「航空の用」に供してはならないとされ、安全上問題のある無人航空機の登録は拒否され、また3年ごとの更新登録/変更届出/抹消登録が必要となる。不正が発覚した場合は、登録が取り消される。また、無人航空機は、登録記号の表示等の措置を講じなければ、同じく「航空の用」に供してはならないとされた。安全上問題がある機体や表示義務違反に対しては、国土交通大臣の是正命令が出される。同省が取りまとめた「令和3年度 無人航空機に係る事故トラブル等の一覧(国土交通省に報告のあったもの)」を見ると、令和3年に起きた事故は86件。飛行させたのは、個人を含め事業者、農業関連事業者、行政機関、研究機関など。事故の概要を見ると、インフラ点検、空撮、農薬散布、飛行訓練など、業務上と思われるシチュエーションが多い。特に電線、電話線、鉄塔などに接触したり、風でコントロールが出来なくなる、GPSなど通信の途絶などが目立つ。このような状況を鑑み、無人航空機メーカーも手を拱いているわけではない。無人航空機の内、ドローンについてとはなるが、事故を未然に防ぐため様々な警報や緊急時対策が施されている。操縦者にバッテリー残量を知らせる警告は、残量10%以下になると強制的に機体を着陸させる。ジオフェンスは、仮想的な境界線で囲まれた空域を逸脱しないための機能だ。フライト中、飛行制御装置が太陽光などで熱暴走するのを避けるため、警告を行う。GO HOME(ゴーホーム/自動帰還装置)機能は、記憶した離着陸点まで期待を誘導し、自動で着陸させ、モーターを停止させる。本機能は、まだ障害物回避を伴わない場合があるので注意が必要だ。障害物センサーは航路上の障害物との接触・衝突を避ける機能。GPSが届きにくい空間においても、安定した飛行を期待できる。電波障害などにより、機体との通信が途絶した際には、安全装置が働き、自動帰還モードか自動着陸モードに入る。また、飛行中、操作不能となる場合は緊急停止操作を行うが、その際でも機体の損傷を軽減させるため、パラシュートが装備されている機体もある。国交省では、現在、今後の無人航空機に関する制度の検討を行う上の参考として、無人航空機による事故等の情報提供を呼び掛けている。*弊社サービスの宣伝となり恐縮ですが、万が一、事故時の原因究明についてはドローンフォレンジック(https://www.fss.jp/drone/)と呼ばれる専門的な事故調査サービスがあります。あわせて、ご記憶いただければ幸いです。
自動運転「レベル4」実現へ 警察庁、許可制度を創設 他
12月23日 警視庁は12/23に、公共交通事業者が、乗客を運ぶ「自動運転サービス」において、自動運転「レベル4」で実施する場合、都道府県公安委員会で許可制とする方針を明らかにした。この発表は庁内の有識者検討会議により、12/23報告書としてまとめられた内容に基づく。続く道路交通法改正案は2022年の通常国会に提出される予定のようだ。「レベル4」による移動サービスが想定されるのは、公共交通の担い手不足や高齢化でサービスの維持が難しくなって来ている地域だ。鉄道の廃線跡、過疎地での地域巡回バスなどだ。レベル4は、レベル3(特定条件下で自動運転、継続困難な場合はドライバーに運転を引き継ぐ)と異なり、システムによる運転継続が困難となる場合(天候の悪化、緊急車両の接近時の一連の退避動作など)でも、自動運転システムが車を安全に停止させることが求められる(参考YouTube「Car Watch Channel」:https://youtu.be/TzHfJ-yDz0c)。警視庁の「令和3年度 自動運転御実現に向けた調査研究について」によると、官民ITS構想・ロードマップ(2020.7.17 ITS総合戦略本部)では、2022年度頃、限定地域での遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスの実現と、2025年を目途に限定地域での同サービスの全国普及が目標とされている。このための実行計画(2020.12.1 成長戦略会議)では、1人の遠隔監視者が3台以上の車両を同時に走行させる形態(参考:YouTube「毎日新聞」https://youtu.be/1oR2z_usvuQ)を可能とするため、引き続き技術開発・実証を行うとともに、必要な制度整備についての検討を加速するとされている。令和2年度調査検討委員会における検討結果の概要を拝見すると、①レベル4の自動運転に関する交通ルールの履行の在り方、②自動運転システムが故障等により作動継続困難となった時の在り方、③自動運行に関与する者の在り方、④運行主体の適格性の審査等の在り方について検討され、①では主に自動運転車の運行を支配し、管理するものに対し、不適格な自動運転システムを使用しない義務、技術開発の状況や交通環境が個別のケースによって異なることを踏まえ、ルールを柔軟に定める、②では、交差点等の駐停車禁止場所で作動継続困難となった場合には、自動運転システムの性能に応じて、安全な場所に停車するために必要な限度で走行の継続を許容、③では、個別のケース毎の技術開発の状況や交通環境等によって関与者の役割は異なり得るため、道路交通法上、関与者に一律の義務を負わせることとする必要はなく、存在を一律に定める必要もない、安全確認や運転操作は基本的に自動運転システムが行うため、関与者は運転免許を受けている必要はない、④では個別のケースごとに異なる技術開発の状況、交通環境、地域との連携、関与者の役割等を組み合わせて従来と同等以上の道路交通の安全と円滑を図ることを目的として、運行主体の適格性について事前に審査し、適格性に問題が生じた場合に排除するための枠組みが必要。また、自動運転による新たな安全リスク等を踏まえ、地域の理解と協力を得ておくことが不可欠となっている。この適格性の審査については、前述の通り都道府県公安委員会で許可制とした。警察庁の今回の発表は、自動運転レベル4における技術的要件、システムによる運転継続が困難となる場合、自動運転システムが車を安全に停止させることや、1人の遠隔監視者が3台以上の車両を同時に走行させる(遠隔運行監視)形態という技術的な土台の上に、許可制度などを整備し、道路交通法の詳細ルールを定めることで、自動運転「レベル4」の実用化を加速させることとなった。来年行われる道路交通法改正案が無事に通常国会で成立し、全国に「自動運転サービス」の恩恵が広まることを期待したい。
万博にらみ関西版「MaaS」 来年度にアプリ運用開始 他
12月22日 国土交通省の近畿運輸局交通政策部は、11/29に「関西MaaS推進連絡協議会の設置について」を発表した。2025年に控える大阪・関西万博に向け、域内にある豊富な観光資源を「観光MaaS」を用いて周遊してもらう仕組みを整え、全体の経済効果に繋ぐ目論見だ。交通や観光を始めとする幅広い業種間での連携を促進、この取り組みを協同で実施していく。第一回目の会議は12/21に大阪市中央区内のホテルで行われた。会議の構成は観光・万博関係者として一財)関西観光本部、大阪観光局、公社)2025年日本国際博覧会協会、交通関係は関西鉄道協会、関西MaaS検討会(大阪市高速電気軌道㈱、近鉄グループHD㈱、京阪HD㈱、南海電気鉄道㈱、西日本旅客鉄道㈱、阪急電鉄㈱および阪神電気鉄道㈱の7社)、近畿バス団体協議会、近畿ハイヤータクシー協議会、阪神高速道路㈱、経済界からは、公社)関西経済連合会、大阪商工会議所、自治体としては、関西広域連合、大阪府、大阪市だ。ここに国から近畿運輸局、近畿地方整備局、近畿経済産業局、近畿総合通信局が加わり、観光・交通分野での関西MaaSの実現を目指す。課題として、日常の競合各社の利害の調整(データ利用、開発費の分担など)、自社アプリとの棲み分けなどが浮き彫りとなるとの論もあるが、JR西の「WESTER」「setowa」のエリア拡大の話題が出た際、同社はこれらのアプリを他社との「デジタル接点」と位置付け、ホワイトレーベル化を検討していた経緯がある。同アプリの設計に反映されていれば、既存プラットフォームを利用し改修を行い、各社からはデータ部分の提供を受けられれば、開発コストの削減と時間短縮に繋ぐことも考えられ、プラットフォーム完成後、旅行商品(デジタルチケットやクーポン、スタンプラリーなど)の充実に、貴重な時間を割り当てられる。広域で利用できる本格的なMaaSアプリの実現に期待したい。また、鳥取県ではこの度「MaaS」導入に向け、来年4月に交通機関や観光事業者、飲食店などが連携し、新たなコンソーシアムを設立することが決まった。2030年までに、スマホアプリにより交通機関の乗換え検索、予約・決済までを一括して行えるサービスの実現を目指す。飲食店などとも連携し、利用者への飲食費、運賃割引きなどのサービスの導入も検討する。コンソーシアム立ち上げの理由には地域の交通問題を解決するため、交通事業者単体でなく地域経済との連携が必要との意味がある。移動と目的をセットとすることで、公共交通の利用促進を図りたい考えだ。コンソーシアムの活動は、会員によるMaaS実現のための情報共有とディスカッション、実証実験やビジネスモデルの立案や提案、会員同士の連携やマッチング支援、セミナー・講演会、研修会、勉強会開催、先進事例調査、コンソーシアムの活動成果の展開、交流会など。会員には、MaaSに取組みたい事業者、業界団体、試験研究機関、教育・行政機関、これらに所属する個人を募る。12/21には、県と鳥取大学工学部附属地域安全工学センターの共催で「令和3年度第1回鳥取県MaaS研究会セミナー」が開催された。余談だが、鳥取県バスフェスタ実行委員会は路線バス利用促進のため、新たな取り組みを始めた。県東部の路線バスに乗り、協賛ラーメン店(29店舗)を訪ねるとトッピング追加などの特典が受けられる。路線バスと店舗案内を記した「麺財布(めんざいふ)」付きラーメンマップを、鳥取市内の東品治町(ひがしほんじちょう)にあるJR鳥取駅前のバスターミナルで配架した。移動手段以外の利用目的を路線バスに見出してもらうため、県とも連携してマップを作成した。一見アナログだが、デジタルに置き換え可能で話題性のある「奇策」だ。今後も、硬軟織り交ぜた豊かなアイデアで「鳥取MaaS」が持続的に地域の足を支えて行くことを期待したい。
ドローンと地上走るロボット組み合わせ 無人配送実験 他
12月21日 日本郵便が東京都の西奥多摩郡奥多摩町にある奥多摩郵便局の配達区内で、12/1から、ドローン及び配送ロボットの連携による配送試行を実施している。本実験で施行されるのは、対象地区においてドローンから配送ロボットへ郵便物などを受け渡し、配送ロボットが受取人の自宅などへ配送する仕組みだ。中山間地域における省人化配送モデルの検証を行う。本取り組みには、株式会社ACSLと株式会社ZMP、奥多摩町が参画、国土交通省における「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」に基づき、補助者を配置せずにドローンを目視外飛行させる承認を得て行われた。株式会社ACSLは2013年に創業し、ドローン開発(自律制御ソフトウェア開発)を行い、ロボティクス技術の社会インフラ化を目指している。事業としては、商業用ドローンの製造販売及び自律制御技術を用いた無人化・IoT化に係るソリューションサービスの提供を行っている。2016年9月に「PF1」と呼ばれる機体を発表し、2018年11月には早くも国内初の「レベル3」飛行を実現している。日本郵便との協力関係は、この年から始まったようだ。2021年6月には「レベル4」に対応したドローンの開発及びドローン配送の実用化に向け、日本郵便と日本郵政キャピタルと資本業務提携を締結している。同社はドローンの自律飛行(制御技術)を、ヒトの「小脳」と「大脳」とに分け説明する。「小脳」はフライトコントローラを担う。飛行中、風が吹いた際、自分が傾いたと認識し、姿勢を戻すために必要なプロペラの回転数を演算し、回転させる。市場に投入されている期待の大部分は、一定条件下での飛行を前提とするPID制御と呼ばれる技術が用いられるが、同社はモデルベースの非線形制御を開発、あらゆる条件下での飛行に対応させる。また「小脳」機能のみで自律飛行させることは難しいため、「大脳」は人間の目や耳の役割を果たす画像やAI、LiDARなどのセンサー情報を融合させ、機体に周辺環境をリアルタイムに与える。これにより煙突やトンネル、屋内など、複雑な環境下での飛行が可能となる。またACSLでは、これらドローンの「小脳」と「大脳」の双方をソースコードレベルから独自開発し、幅広い拡張性を持たせることを可能にし、同時にセキュリティ面も担保する。奥多摩町には多摩川を堰き止めた小河内ダムによる奥多摩湖の湖面が横たわり、町の大部分は山林に囲まれ、東京都としては急峻な地形を擁する。このため、冬は寒さが厳しく-5℃を下回る日も多い。積雪量に関しては50cm程度、場所により1m程以上になることもある。大雪や台風による道路の崩落や路面凍結により孤立する状況となる集落が出た経験もある。今回の実験では、災害に向けた配備ではないが、物流を補完する意味でドローンが用いられる。奥多摩郵便局から奥多摩湖沿いに設けられた中継地点までは配送車両が配送物を運搬し、中継地点から設定された配送エリアまでドローンで約2㎞を空輸し、空中のドローンから荷物を受け取る連携機構と呼ばれる受取台経由で、ZMPの宅配ロボ「DeliRo」が配送物を受取り、ラストマイルとなる約0.2kmを配送、届け先の玄関に置き配する。今回使用されるドローンは、ACSL製の「PF2」で、外寸は1173mm×1067mm×654mm(プロペラ含む)、最大離陸重量は9.80kg、最高速度は水平状態で10m/s(36km/h)、上昇:3m/s、下降:2m/s。地上局となるPC画面上で挙動を監視し、異常時には警報が表示され、緊急着陸等の指示に対応する。機体には非常時用のパラシュートが搭載され、運航時に積載できる荷物は最大1.7kg、風速10m/s、降水10mm/hまで運航可能だ(YouTube「ANNnewsCH」 https://youtu.be/Zu17BYXO7NA)。ドローンの社会実装は本格化しており、消防庁でも災害時の被害状況の確認に活用するため、全国の消防本部にドローンを配備する方針を固めている。同庁の令和3年度消防庁予算(案)では、一般会計にドローン運用推進事業0.1億円(令和2年度 0.1億円)が割り当てられ、災害時の効果的・効率的な情報収集に資するドローンの運用に関する「アドバイザーの育成研修」及び「啓発の実施」を進める。同時に地域防災力の中核となる消防団及び自主防災組織等の充実強化では、補助対象資器材等にもドローンが含まれる。ドローンは災害時以外にも、石油コンビナート等の大型タンク内部の点検などへの利用を見込む。NHKの「NEWS WEB」(参考 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211220/k10013396021000.html?utm_int=detail_contents_news-related_001)によれば、1機350万円(消防本部に配備する撮影機能などを備えるドローン)程度の購入を想定しており、1消防本部については、点検時などに備え、2機以上配備する体制を構築する予定だ。
損保ジャパンら8社、都内初となる自動運転移動サービスの実証実験を実施 他
12月20日 アイサンテクノロジーは今年52期(事業年度)を迎える。創業は1970年(名古屋市昭和区)だ。当初は測量計算プログラム「測量計算書」や測量システム「ABS」を販売、1983年には自動製図機オンラインコンピュータシステムに参入、翌年測量CADシステム「WING」を発売している。長く測量にこだわって来た同社は2012年に準天頂衛星みちびき初号機からの補強データを利用する日本初の「高精度単独測位」システムを発売する。沿革の中で「自動運転技術」に関する記述が出て来るのは、2014年だ。同社は、名古屋大学及び複数の企業と共同で市街地での自動運転技術の公道実験を実施するワーキンググループ「アーバンドライブWG」を設立する。同年11月に内閣府より自動走行システムの実現に向けた衛星測活用の基礎評価調査業務を受託している。その技術は瞬く間に成長を遂げ、様々な省庁や企業との協力関係を築く。2020年8月に経済産業省の"地域新MaaS創出推進事業"「塩尻型地域新MaaS×自動運転実証プロジェクト」に採択され、周知の通り「塩尻MaaS」は全国津々浦々に知れ渡る実証実験となった。測量と準天頂衛星を利用した位置情報から進み、いまや自動運転をも手中に収めんとする老舗は、この年末も活発に活動している。この12/3には「愛・地球博記念公園『モリコロパーク』にて自動運転モビリティサービス実用化に向けた技術研究」最終年度の研究評価を実施すると発表、知の拠点あいち重点研究プロジェクト「自動運転モビリティサービス実用化に向けた技術研究」の一員として、自動運転技術を基盤とする事業化レベルのMaaS全体システムの構築と、要素技術の実用レベルへの機能及び信頼性向上を目指す研究を行っている。プロジェクトは最終年度を迎え、各開発ターゲットの成果を集約した総合フィールド試験を行い、目標に対する達成状況を確認するとともに、一般利用者の試乗会を実施、ユーザー評価にも耳を傾ける姿勢は評価できる。12/6には、長野県塩尻市においてEVバス型自動運転車両を市街地(一般道)で走行させる社会実験にも参加したことを発表している。この実証実験には、一財)塩尻市振興公社と塩尻市が代表となり、ティアフォー、損害保険ジャパンが参加する。実証実験は、11/24~11/28に運転者が操作の責任を持った上で特定の条件下において、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの操作をシステムが自動で行う「レベル2」として行われた。市内の広丘駅西口から無印良品/ツルヤ塩尻広丘店の約3.8kmのルートで、タジマ社製のGSM8(10名乗り)を自動運転対応車両に改造し、実施された。初日のセレモニーには、塩尻市の小口利幸市長も参加し、関係者がEVバスに試乗、乗り心地を確認した。前述した「愛・地球博記念公園『モリコロパーク』での実験の様子は、https://www.youtube.com/watch?v=KxGHKoISzmQ&t=5s(*外部サイト CBCニュース「ゴルフカート型の自動運転車 公園で試乗会 自動運転サービス実証実験の成果を体験」)などでも確認出来る。今後も様々な自動運転関連の技術の積み上げとその実用化に期待したい。
都内初、西新宿でまちのインフラと協調した自動運転移動サービスの実証実験を実施 他
12月17日 新潟県十日町市の「究極の雪国とおかまち-真説!豪雪地ものがたり-」は、文化庁が地域の歴史的な魅力や特色を通じ、日本文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として認定したストーリーの一つだ。同庁はこの魅力あふれる有形・無形の文化財群を総合的に整備・活用し、国内外へも戦略的に発信していくことにより、地域の活性化に取り組む。このストーリーは全国で104認定されているそうだ。十日町市は、豪雪に育まれて来た歴史と文化を「着もの・食べもの・建もの・まつり・美」の5つの物語として発信している(参考:「雪国とおかまち」https://www.city.tokamachi.lg.jp/yukiguni/nihonisan/index.html)。12/10に、一社)十日町観光協会により「究極の雪国ものがたり」MaaS実証実験説明会が開催された。新潟県の南魚沼市、十日町市、湯沢町エリアにて行われている本実証実験は、観光庁が公募した「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」に採択され、2022年2月13日まで行われる予定だ。同庁の観光地域振興課は令和2年8月に「日本の観光地域づくり法人(DMO)を取り巻く環境について」を発表している。DMOとは、Destination Manegiment /Marketing Organization(観光地域づくりを行う舵取り役となる法人)を指す。ちなみに2020年6月(日本政府観光局JNTO 集計)時点での訪日外国人旅行者数は394.7万人、2019年の3188万人の実に76.3%減となっている。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、観光需要は大きく減少、延べ宿泊者数が大幅に落ち込んだが、6月には「国内需要」について回復の兆しが見られている。本統計から観光庁は、国内観光の需要回復と観光関連産業の体質の強化を図り、次いでインバウンド促進に向け引き続き取り組む施策を講じている。その立役者となるのがDMOだ。観光地域づくり法人(DMO)は、観光地域づくりの司令塔となり、地域や関係者に対してプロジェクト・マネジメント、取組の企画立案や関係者間の合意形成、資金調達、予算執行管理、スケジュール管理、PDCAサイクルの実施などを担う。同庁のDMO登録制度には、令和2年3月末時点で全国281団体が登録している。だが、地方自治体には、地域経営に係るノウハウや人材が不足している等、まだ課題も多い。そこで同庁はDMOに「体制強化に対する支援・情報提供支援・事業に対する支援」を行い、観光地域づくり法人全般の底上げを図っている。一社)雪国観光圏は、この施策の中で令和2年度の重点支援DMO(計32法人)に属する。12/9から、同法人と一社)越後湯沢温泉観光協会、松之山温泉合同会社まんまが連携して行う「究極の雪国ものがたり~絶景と薬湯とにいがた清酒を愉しむ旅」(MaaS実証実験)は、雪国ならでは、雪道での運転や二次交通の課題に対して「新ルートバス」や、AI乗合いタクシーなどを用意して行われる。新ルートバスは、①南魚沼の豊かな景観と、地元マルシェで雪国文化の真骨頂とも言える雪国フードに出会える「魚沼雪里ライナー」(越後湯沢~道の駅南魚沼~六日町温泉~六日町駅~魚沼の里~浦佐駅)と、②日本三大峡谷の一つ清津峡の絶景と草津、有馬に並び日本三大薬湯の一つに数えられる松之山温泉の薬湯を堪能できる「雪国豪雪ライナー」(越後湯沢駅~清津峡(きよつきょう)トンネル駐車場~松之山温泉~まつだい駅)の2ルートとなる。①は11/3~2/13まで(*12/31-1/1は運休)大人500円/小人(小学生以上)500円、②は12/3~2/13まで(期間内の金・土・日・祝および12/28-1/4は毎日運行)大人1000円/小人(小学生以上)1000円、但し松之山温泉~まつだい駅間は、大人・小人ともに500円となる。③「まつだい・松之山周遊タクシー」は、まつだい駅から松之山エリアに予め設定された乗降ポイントを周遊運行する。運行期間は、12/9~2/13まで(期間内の火・水を除く全日運行、祝祭日も運行、12/28-1/4も毎日運行)大人500円/小人(小学生以上)500円となる。一方、④「まつだい・松之山AI乗り合いタクシー」は予め設定された乗降ポイント間の移動を、希望時間に自由に予約することが出来る。運行期間と運賃は、周遊タクシーと同一となる。今回の①~④のチケットは、㈱JTB総合研究所のスマホアプリ「Japan Travel Guide+CONNECT」上で販売される。アプリは、http://snow-country.jp/yukigunimaas/ にあるQRを読み取り、スマホにダウンロードして利用する。ダウンロード特典として、松之山温泉里山ビジターセンター(*改装中は「ひなの宿 ちとせ」)か、越後湯沢駅西口にある雪国観光舎にお越しいただくと、越後湯沢の湯を自宅でも愉しめる「温泉の素」(雪国観光舎)や「松之山発泡入浴錠」(松之山温泉 里山ビジターセンター)をプレゼントしてくれる。国境を越えた雪国、越後湯沢のプラットホームは「究極の雪国ものがたり」へのトランジットゲートウェイとなり皆様をお待ちしている。
万博に向け自動運転船実験 大阪城外堀で竹中工務店 他
12月16日 2025年の大阪万博に向けて、大阪城の外堀で竹中工務店による自動運転船「海床ロボット」の実証実験が始まった。「水上ドローン」とも呼ばれる本モビリティは、水上作業の自動化や効率化、安全性の向上に貢献することが期待されており、東京海洋大学やIHIなどとの共同開発となる。日本の大都市の臨海部の水辺は、都市の過密化により、交通・物流・環境・災害の課題が山積している。こうした水辺のヒトやモノの移動に水域の利用が一役買うことになるかも知れない。大阪には、2001年に内閣官房都市再生本部による都市再生プロジェクトに指定されたことが契機となり「水都大阪コンソーシアム」(大阪商工会議所、関西経済連合会、関西経済同友会、大阪府、大阪市、大阪観光局、大阪シティクルーズ推進協議会で構成される)と呼ばれるコンソーシアムが発足、水辺の生活の活性化や賑わいを再生する試みを展開している。同団体は2021年1月に「水都大阪の取り組みについて」を発表、水辺に携わる多くのプレイヤーの参画による水と光の魅力に更なる広がりや厚みを創出するとの方針のもとに、水辺の拠点・観光資源をつなぎ、ベイエリアや淀川舟運の胎動と連携によるネットワーク形成、水辺に点在する観光・文化施設等との連携、ライトアップなどの光景観を活かしたナイトカルチャー、水都の魅力発掘から発信や外部との連携によるブランディング・プロモーションの強化などを図っている。これまでは、八軒屋浜、ほたるまちなどの水辺拠点の活性化、新たなクルーズの造成、舟運基盤整備などに携わって来た。その中で水辺事業者や地域との連携、安全対策の強化、新型コロナ感染症対策、舟運利用者の利便性の向上などが課題となっている。また水辺への誘客や賑わいの創出などの面では大規模イベント開催による水都の訴求、中之島公園の水辺利活用促進、東横堀川周辺の魅力向上、中之島ゲート利活用の促進なども行ってきた。ここではイベント実施方法の見直しや、舟運連携強化、「次の目玉」となるエリアの開拓などが課題とされて来た。2017年度に119.9万人の舟運利用者は、コロナ禍の影響を受け、2020年度上期には、2.2万人まで落ち込む見通しだ。だがしかし、水都大阪ビジョンやコンセプト、アクションプランを拝見すると思いの外、「大阪万博」の文字が少ない。かろうじて、アクションプランの中で「ベイエリアの取組の一部に夢洲の船着場整備、万博との連携、水回廊とのネットワーク形成等」などが見られるが、具体的な案はまだ見えてこない。今回の自動運転船の実証は、万博に向け幾つかの意味が考えられる。東京海洋大学は、ホームページ上の研究・社会連携の「重点研究課題」に自律航行船の要素技術に関する研究 -ビッグデータと機械学習による見張り支援と自動化-との課題を研究しており、IHIは、株主(JFEホールディングス、IHI、今治造船)となるジャパン マリンユナイテッド株式会社(船舶・艦艇・海洋浮体構造物等の設計、製造、販売)の傘下であるJMU ディフェンスシステムズ株式会社において、多目的水上自律無人艇などの開発も手掛けている。元来は、防衛向けの無人機雷排除システムだが、技術の民間転用も試みる。航路保持・定点保持、遠隔無線操縦、遠隔管制などができ、障害物の自動回避、自動離着桟機能なども有する。これらの技術はイベントや重要施設の警戒監視活動、物流・人員移送などに使うことが出来る。万博会場は、今後2025年度に向け、2022年半ば程から、会場内基盤・インフラ整備などの本格的な工事に突入する(土地の造成は2020年~)。夢洲は、1988年に策定された「テクノポート大阪」計画の人工島3地区の一角。ゼネコンは、「海床ロボット」に資材搬入車両で混雑する夢咲トンネルや夢舞大橋の利用よりも、搬入する物量に余裕のある海上輸送路を利用し工期短縮・コスト削減に繋ぐことを期待し、大阪府や大阪市などは「水都のアピール」や一部水面を有する会場の魅力向上や、開催期間中の来場者の輸送を支える海上モビリティとしての活用を期待しているのではではないだろうか。
自動運転車、受け入れへ先頭走るシンガポール 現地で見えた実用化への課題 他
12月15日 国土交通省で12/16に、効果的・効率的な都市交通調査体系の構築に向け、「新たな都市交通調査体系のあり方に関する検討会」(第2回)が開催される。行政委員や都市計画コンサルタントが、各地域での取り組みやビッグデータの活用、分析等の留意点や課題等について、効果的・効率的な都市交通調査体系の構築に向け検討を行う。今年11/26に開催された同検討会の配布資料中、「都市交通調査に関する最近の状況、取組等について」を拝見した。内容は大きく5つに分かれ、1)都市交通調査の調査テーマ・目的の変遷、2)人々の活動と活動場所に生じた乖離、3)パーソントリップ調査の実施状況・最近の取組、4)新技術やビッグデータ整備の進展及びデータ活用ツールの高度化、5)自治体における都市交通施策の取組みニーズとデータ活用の状況についてまとめられている。1)について東京圏における調査テーマの変遷を見てみると、第1回~第3回(S43~S63)では、交通混雑解消や、多核多圏域型都市構造に向けた交通体系の強化、第4回~第5回(H10~H20)では、高齢化への対応など将来交通体系の見直しや有効活用、第6回(H30)では、人中心のモビリティネットワーク形成、暮らしやすい生活圏形成へとテーマが変遷している。2)では、人々の外出率や私事・業務目的の移動の減少が見られるなど、コロナ禍以前と比較すると、移動の減少傾向が顕著であることがグラフで示されている。三大都市圏の外出率(平日)は1987年には86%であったが、2015年には81%まで減少している。休日では同じく1987年に66%あったものが、2015年には、59%まで減少した。移動の減少の理由として上がるのは、人々のオンライン上の活動(物販系のEC市場の規模拡大、Web・TV会議など仕事の仕方の変化、電話や情報機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関数の増加など)の増加であり、今後定着する可能性があると予想されている。活動場所としては、テレワークによる自宅就業、コワーキングスペースの利用、道路上におけるラウンジ空間、ワーケーション等が挙げられている。3)これらの背景を踏まえ、1960年代以降、各都市圏で実施されてきた「パーソントリップ調査」(以下「PT調査」)が、近年は減少傾向にあり、特に地方都市圏ではその傾向が顕著になっている。同調査方法は、各都市圏が抱える課題に対応し調査設計を行うため、都市圏間でのデータの相互利用がしづらいなどの点が指摘されている。国交省が、昭和62年から概ね5年毎に行ってきた「全国都市交通特性調査」。従来の調査は訪問や郵送配布が主流であったが、近年ではWeb回収にシフトし、効率化やデータ品質向上が期待される。4)では、位置情報を活用したビッグデータ整備の進展とデータ活用ツールの高度化について触れられている。ビッグデータは、大量のサンプルを高頻度で把握できることがそのメリットである一方、活用する技術により得られるビッグデータの特性が異なるため、同省の立ち位置としては利活用の目的に応じ、データを適切に利活用することが必要とされる。近年では一部の都市圏では、PT調査とビッグデータを組み合わせ互いのデータ特性を生かした推計や分析が実施されている。長野都市圏では広域の流動を携帯電話基地局データを用いて把握、休日に都市圏外から訪れる人の規模の把握と観光交通の検討などに活用している。これらのデータを活用したシミュレーション技術なども高度化している。PT調査だけでは把握や検討が困難である街区レベルでの施策の検討や評価ツールとして活用されることが期待されている。また、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化も推進されているが、こちらはまだユースケースが開発されている実証実験段階だ。都市計画やまちづくり、防災対策の高度化、多様な都市サービスの創出等を実証、スマートシティの社会実装を加速させることが期待されている。他方、ビッグデータのみでは捉えられない活動実態をアンケート調査から明らかにするなどの試みも行われている。5)都市交通施策における自治体ニーズにはどのようなものがあるのか。「公共交通の利用促進・利便性向上」や「公共交通維持」などのニーズが高く、次いで地域公共交通計画等の策定、交通不便地域・公共交通空白地の解消、公共交通ネットワークの構築・整備と続く。各自治体が「MaaS」を推進する上で必要とされる。またPT調査データは、一定の活用はされているものの「詳細分析には外部委託が必要になる」と感じる自治体が多く、調査ゾーンと検討製作範囲が不一致、統計的精度が不十分などの声もある。今後「都市交通政策検討に活用したいデータ」は、交通IDデータ、GPSデータ、基地局データ、カーナビデータ、交通流動量調査、センサー・カメラデータ、その後にPT調査との順であった。人中心のモビリティネットワーク形成、暮らしやすい生活圏の形成には、人々の移動と時流に即した技術や調査方法が必要であり、早急に刷新されていく必要がある。